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お風呂に感性を吹き込む

和蝋燭で瞑想する、お風呂時間の新習慣。
一つひとつ手仕事で作られる和蝋燭の歴史と、
一度は試したくなるその使い方とは。

老舗の和蝋燭屋「中村ローソク」田川氏が語る和蝋燭の歴史

1887年(明治20年)に創業し、130年以上変わらない製法で和・京蝋燭(ろうそく)を一本一本作り続けている中村ローソク。香り付きの蝋燭やインテリアにも使用できる商品など、伝統を守った製法で新たな和・京蝋燭を生み出し、その魅力を伝え続けている。

田川広一

京都にある老舗和蝋燭屋「中村ローソク」四代目。和蝋燭職人。1888年に中村商店として創業。現在も様々な業界とコラボレーションを重ね、現代に灯りをともしている。

みなさんは、浴室でどのような時間を過ごしていますか?入浴剤を入れたり、お気に入りのバス用品を使ったりと様々な楽しみ方があると思いますが、心身ともにリラックスできるお風呂時間に瞑想を取り入れてみるのはいかがでしょうか?今回は、BAINCOUTUREが新しくスタートしたサブブランドであるMaison de Baincoutureがプロデュースした「和蝋燭」をご紹介。京都で130年以上の長い歴史を持つ中村ローソクの田川さんに、その歴史や今回一緒に製作した和蝋燭についてお話を伺いました。

かつてから照明として使われていた和蝋燭

はじめに、和蝋燭の歴史について教えてください。

田川さん 日本では、室町時代から櫨(はぜ)の実を使った和蝋燭が作られるようになりました。外出用の提灯のための需要が増えたこともあり、江戸時代後期から明治時代にかけて和蝋燭の使用量が急増。今の和蝋燭と言われるものができ、使われ始めたのは江戸時代からです。

電気がなかった時代、人々は夜になると月の光と和蝋燭の灯りのみで暮らしていたと言われています。江戸時代には、和蝋燭は照明として使われていました。しかし、櫨でできた和蝋燭はとても高級なものだったため、使用できるのは裕福な商人や武家が中心で、庶民は菜種油の灯りを使うことが一般的だったそうです。

照明以外の用途もあったのでしょうか?

田川さん 実は蝋燭ができた頃から、”時間を測るもの”として使われていました。大きさや重さによって、火が灯り続ける時間は変わります。「この重さなら何時間」という風に、昔から大きさと重さの単位で商売を続けてきたので、和蝋燭は匁(もんめ)*1 売りなんです。蝋燭を売るときに号数で書いてしまうと大きさが分かりづらいので、重さで表すことで分かりやすくしています。

*1 匁…尺貫法による重さの単位。一匁は一貫の千分の一。3.75グラム。

洋蝋燭と和蝋燭の違いについて教えてください。

田川さん 簡単に言うと、洋蝋燭は石油由来で、多くのキャンドルは石油系のワックスであるパラフィンから作られています。一方で、和蝋燭は100%植物由来。主に櫨(ハゼ)の実を使用しているのですが、米ぬかなどを用いることもあります。櫨は江戸時代、食品の防腐剤として使われていたこともあり、体内に入っても大丈夫なんです。

大豆や椿をはじめとする植物の油は、絞った時に副産物として蝋が出てきます。常温で液体になるものが油で、常温で固体になるものが蝋とされています。蝋を固めても割れたり簡単に折れてしまえば蝋燭にすることは難しく、糸の芯に火を灯しても炎が小さい。そのため、植物からできた大体のキャンドルには、パラフィンが足されていることが多い傾向にあります。パラフィンを入れると煙やタール類が発生するので、環境にも体にも良くないとされています。僕たちは、パラフィンを一切使わずに和蝋燭をつくっています。

植物由来の蝋燭としては、櫨が一番適しているのでしょうか?

田川さん 櫨(はぜ)が一番無駄なく作ることができます。最近は櫨蝋が少なくなってきているので、米ぬかの油やパームヤシ油を混ぜたものを代用品として使用することもありますが、櫨を使用する場合は何も混ぜることはありません。

和蝋燭の炎のゆらぎが心身を癒す

今回の商品化のお話を受けた時は、どんな印象でしたか?

田川さん お風呂の中で瞑想を行うというアイディアは、率直にすごく良いと思いました。お風呂の中では体がリラックスしている状態なので、瞑想するにはもってこいの環境なんです。

瞑想って、ほとんどの人が目を瞑って座ることだと思っていますが、実は目を瞑っているのではなく半目なんです。仏像やお釈迦さんに半目が多いのは、瞑想中の姿を表しているからだと言われています。つまり、目が半分開いていて、何かを見ている状態。しかし、多くの人にとって何かを見つめ続けることは難しいので、和蝋燭の炎のゆらぎを見る。不規則にゆらぐ炎を見ながら「綺麗だな」と思っているうちに、何も考えない時間が生まれる。その時間・状態こそが、瞑想なんです。

今回、中村ローソクさんにとって初めての試みはありましたか?

田川さん 蝋燭は基本的に燭台に立てて使用するので、「自立させて欲しい」というオーダーは初めてでした。燭台ありきなので、自立するということ自体、和蝋燭の考えの中にないんです。「寸胴な太さで自立し、短時間で消えるように短い長さで、尚且つ綺麗に消えて欲しい」というのは、厳しいオーダーでしたね。笑

底を平らにすることで自立し、短時間で消えるように長さを短く調整している。
※和蝋燭は一つひとつ手作業で作られているため、自立しないものも混ざっている可能性があります。火を灯す際には注意事項をご確認の上、くれぐれもご注意下さい。
困難がありながらも実現したのは、本当にありがたいことだと思っています。

田川さん 「常に新しいことに挑戦させてもらいたい」と思っているんです。時代に合った、今の人が使いやすい新しいアイディアや思いつきは、普段の仏具としての仕事の中ではなかなか思いつかない。僕たちは作ることはできるけれど、それを商売にしなければならないし、この技術を次の代に繋いでいく必要があります。なので、「こういう用途で使いたい」というオーダーをもらえること自体がすごく嬉しいし、ありがたいことだと思っています。

そして、できるだけ多くの人に使ってもらいながら、同時に和蝋燭のストーリーも伝えていきたいです。ただストーリーを聞いて終わりではなく、実際に使ってもらうことで、使う度にそのストーリーを思い出してもらえたら嬉しいですね。

お風呂での瞑想に最適な和蝋燭の使い方

今回、中村ローソクさんに特別に製作いただいた和蝋燭。再生タイルでできているボックスの蓋を開けると、大小2種類の和蝋燭が入っています。それぞれ10分と20分で消えるように設計されており、その日の気分で選べる仕様になっています。使い方は簡単。開けた蓋に和蝋燭をのせてお風呂の縁に置き、火を点けるだけです。

開けた蓋に和蝋燭をのせる様子
和蝋燭に火を灯す様子

田川さん 「和蝋燭は、和紙にい草の髄を螺旋状に巻いており、空洞の太い芯の内部に空気の流れができるので、炎が不規則に大きくゆらめきます。一瞬一瞬で不完全燃焼を起こしているのですが、これこそが規則的なゆらぎと不規則なゆらぎが丁度よく組み合わされた「1/fゆらぎ*2」です。このゆらぎには人の心を落ち着かせてくれる効果があり、瞑想にぴったりなんです。

*2 1/fゆらぎ…パワー(スペクトル密度)が周波数fに反比例するゆらぎのこと。ただしfは 0より大きい、有限な範囲をとるものとする。

和蝋燭特有の、優しく温かみのある夕陽のような炎のゆらぎに癒されながら、特別な時間を過ごして欲しいですね。和蝋燭の火がお風呂の水面に映る様子も、とても美しいと思います。」

和蝋燭の灯火が、お風呂の水面に映る様子

田川さん 予測できない炎のゆらぎと、少しずつ溶け、変わりゆく姿で時の変化を伝えてくれる心地良さが、和蝋燭にはあります。10分、20分という時間の中で存分に炎のゆらぎを楽しむことはもちろん、途中で火を消したい時には、小さなコップなどで蓋をすれば大丈夫。酸素をなくせば綺麗に火が消えるだけでなく、再び火を灯すこともできます。

 

和蝋燭は後処理も楽?終始心地よい瞑想時間を楽しめる

100%植物由来でできている和蝋燭は、自宅で使う際の後処理の心配もいらないのが大きな特徴です。

田川さん 「燃えかすが残った場合は、水で流してもらえば大丈夫。残った蝋やかすは産業廃棄物ではなく生ごみなので、燃えるごみとして捨てることができます。パラフィンなどの成分が入っている蝋燭は、家庭ごみでは捨てられず産業廃棄物になるのですが、和蝋燭は家庭ごみとして捨てられるので後処理の心配もありません。また、和蝋燭は60度以上の熱湯で完全に溶けてしまうので、もし蓋に蝋がついて汚れてしまっても、熱湯をかければ簡単に綺麗になるので、掃除もすごく楽だと思います。」

田川さん 「お風呂で瞑想することに慣れてからお寺へ行くと、また全然違った瞑想を体感してもらえると思います。この和蝋燭をお風呂で使用する際には、静かにお風呂に浸かって、リラックスした状態で炎の揺らぎを見つめながら瞑想して欲しいですね。畳半畳先に置いて火を灯すと、自宅でもリラックスした状態で瞑想してもらえると思います。」

さいごに

心と体を癒すお風呂時間に和蝋燭を取り入れるだけで、これまでとは違う過ごし方ができるのではないでしょうか。和蝋燭の心地よい火のゆらぎに癒されながら、自宅のお風呂で特別な時間を楽しんでいただけますように。

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